2011年7月31日日曜日

『ヒトラーとスターリン』:1

アンソニー・リード/デーヴィッド・フィッシャー(根岸隆夫・訳)『ヒトラーとスターリン』みすず書房, 2001年
p.118
ストラングは情勢を極めてよく理解していた。そしてまたロンドンの政治家とは正反対に、ロシア人を理解していた。ソ連が英仏と協定を結びたがっていることを彼は確信していた。「だが」と彼は指摘する。「我々は、資本主義の二列強と緊密な政治軍事同盟を締結することがソ連の外交政策にとってきわめて目新しいことであることを考慮しなければならない。この口承は我々にとって同じように、彼らにとっては大冒険なのだ。こちらが相手を信用していないならば、相手も同様にこちらを信用していない。しかし我々がそうだったように、彼らも必要に迫られてこの道をたどったのだ。もし自分たちのしていることが賢明かどうか我々の心がぐらついているとすれば、それは彼らとて同様だ。これについてクレムリン内部で意見が食い違っている可能性はある。双方のこの不安のせいで、交渉はこんなに困難になっている……」。
「我々に対する不信と疑惑は交渉のあいだ薄らぐことはなかった。そして我々に対する敵意が増すこともなかったと思う……おそらくソ連には交渉のもっと早い時期に、この協定への対価を払っておいたほうが賢明だった。なぜならこちらは値切れる立場ではなかったのだし、国際情勢が悪化するにつれソ連の言い値は上がると見られた体。六月二日のソ連原案の行使をのんでさっさと決着を付けていれば、いまよりましだったろう」。
乱暴なほど正直で鋭い分析として、ストラングの手紙は非の打ちどころがない。何頁にもわたるこの手紙は専門家としての明晰な洞察を冷静に開陳しており、のちに彼が次官となって外務省の頂点を極めたのも当然である。彼は政府に直ちに軍事交渉に同意するよう求め、再度その緊急性と重要性を強調してこう書いた。「決裂は悪感情を残す。そしてドイツの行動を促すことになる。ソ連を孤立、あるいはドイツとの合作に追いやるだろう」。

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