2012年1月5日木曜日

salary

逸見喜一郎、『ラテン語のはなし 通読できるラテン語文法』、2000年

英語のsalaryの語源はラテン語のsalariumである。salariumという単語がsal<塩>という単語の派生語であることは、形態上、確実である。しかしだからといって「古代ローマでは兵士に給与として塩が与えられた」といったたぐいの、時に新聞などでお目にかかる訳知り顔の説明は困ったことである。
salriumの意味は、残された古典ラテン語の用例から判断する限り、「文官・武官を問わず、ある程度の地位を得ている(したがって兵卒ではない)者に対して、定期的に支払われる金銭」である。なぜその金銭が「塩」に由来する名称を得たのかは、もはや文献的・歴史的に確定できない。実際に兵卒に塩が配れた事例を、私は読んだことがない。
もちろんsalariumの語源が「塩」にあることは否定しようがないから、文献が残る以前の昔に、塩の現物支給があったかもしれないが、しかし想像はあくまで想像でしかない。むしろそうではなくて、「塩代」とでも婉曲に言ったのかもしれないのである。いずれにせよ文献上、「給料」をもらえたのは兵卒なんかではない。語源は歴史的事実を必ずしも明らかにはしない、と肝に銘じておいたほうが良い。

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