2013年10月16日水曜日

国防軍とヒトラー I 引用1

エーベルトにとっては、僅か一年前に怒ったばかりのロシアの諸事件と同様のことが起こっていることは余りにも明白であったし、また余りにも恐ろしいことであった。すでにスパルタクス団は街頭に進出していた。ヴィルヘルム街の宰相官邸の中に坐ったままで、彼は、宮城にある根城から出てウンター・デン・リンデンを行進してゆく彼らのデモのざわめきを聞くことが出来た。ここで妥協したら、彼と彼の仲間はケレンスキーの二の舞を演ずることになるかも知れなかった。何故なら、そうしたら、スパルタクス団は、大した努力もせずに、協議会の指導権を握って、政府に既成事実を突きつけることが出来るであろうから。また、そうなればボルシェヴィズムが支配することなろうし、そして、そのような事態にたちいたった場合に、彼が独立社会民主党の支持をあてにすることができないことは明白であった。
このようにして、あの十一月九日の運命的な夜には、内乱の妖怪に取りつかれていたエーベルトは彼の弱々しい権威を支えるための手段を絶望的に探し求めていたのであった。彼が頼りにすることが出来るのはいかなる勢力であったろうか?将校団はどうだったろうか?回答は劇的な形で突然やって来た。宰相のテーブルの上には、彼とスパの大本営とを個人的に、秘密の裡につなぐ電話がのっていた。不幸なマックス・フォン・バーデンが皇帝に対して、帝位を救うためには彼自身を犠牲にするように、と説得するために最後の絶望的な努力を行なって、失敗したのもこの電話を使ってのことであった。今度はその同じ受話器がマックス公の後継者に希望の便りを伝えて来た。エーベルトはその時一人きりであった。窓は閉ざされ、カーテンは引かれていた。しかし、それらを通して街頭のデモの騒がしい叫びは聞こえて来た。突然、電話が鳴り出して、他のすべての雑音を消してしまった。エーベルトは受話器をふるえる手で取上げた。そして、彼は喜びの余りに泣き出さんばかりになった。
「もしもし、グレーナーですが。」
スパからのきびきびとしたど軍人の声は尋ねた。政府はドイツを無政府状態から守り、秩序を回復しようという意志がありますか?
「そうしたいと思っています。」とエーベルトは言った。「それでは最高司令部は軍隊の規律を維持し、それを平和の裡に帰還させます。」とグレーナーは答えた。エーベルとは尋ねた。最高司令部は兵士協議会に対してどのような態度をとられますか?彼らを友好的に取扱えという命令を出しました、というのがその返答であった。宰相は更に尋ねた。「我々がどうすることをお望みですか?」「最高司令部は、政府が将校団と協力してボルシェヴィズムの抑圧と軍規の維持にあたることを期待しています。また、軍隊への食糧の供給が確保され、交通運輸の妨害が排除されるようお願いします。」最後に、ヒンデンブルクが軍の指導者としてとどまることが報告された。
このようにして、電話を通じての五、六回の言葉のやりとりのうちに、敗北した軍隊と動揺した半革命的政権との間には一つの協定が結ばれた。そして、この協定はその双方の当事者を極左的革命勢力から救うことにはなったが、同時に、ワイマール共和国は、この協定が結ばれたことによって、誕生の時に既にその没落を運命づけられたのであった。

pp. 127 - 28

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