2011年9月8日木曜日

『ヒトラーとスターリン』:5

『ヒトラーとスターリン』下 pp.611-612
こうした噂話は無意味で取るに足らぬものに思えるかもしれない。しかしこれは混乱と「雑音」を作りだすのに貢献することで偽装宣伝全体の中で極めて重要な役割を果たした。つまり本物の情報を、偽情報や歪曲や不完全な情報の海のなかに埋没させたのである。後になってみれば真実の情報を取り出すのはいつだって簡単だが、その渦中にあっては事実上不可能で、敵が「雑音」製造に成功すればするほど難しくなる。たとえばスターリンは「バルバロッサ」開始が6月22日だという正しい情報を得ていた。しかし彼のもとには開始日が4月6日から5月いっぱい、6月15日至るまでばらつきのある情報も届いており、それがことごとくまちがっていたのだから、ほんとうの日程を額面どおり受け取るのはおぼつかなかったのだ。宣伝省の高官ヴェルナー・ヴェヒターはのちにゲッベルスの手法を見事に単純な言葉でこう説明している。「バルバロッサ」の準備にはおびただしい噂がともなった。「そのどれもが等しく信憑性があり、終いにはどれがほんとうだか誰にもわからなくなっていた」。
攻撃の時が刻々と近づくにつれ、この評はたしかにスターリンと彼の諜報部の幹部たちには当たっているようだった。

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