本論の問題関心
エリザベス1世〜現代にかけてのイギリスの戦略は「海洋国家としての立場」vs「大陸への介入の必要性」の緊張関係
この緊張関係の根源となる3つの政策…(a)[おそらくこの3つが全てを視野に入れる戦略=世界戦略]
- ドーバー海峡の制海権維持による大陸からの本土防衛
- イギリスの海上交易の保護
- 大陸での覇権国家の出現の阻止
しかし、スペイン継承戦争まで実際体な戦略体系としてまとまらず
戦略体系の形成の遅れの原因…(b)
- 人的・物的資源の不足
- エリザベス1世時代の偉業の記憶
- 財政上の制約(→エリザベス1世時代の偉業を規定)
→2つの立場の対立…(c)
- 制海権の掌握のみで大陸諸国との戦争に勝つことができる
- 大陸諸国は陸上兵力をもってのみ打倒可能である
[本論では、スペイン継承戦争まで、なぜ(a)の3つの戦略が並立しなかったか、という観点から論じる]
メモとして分り易くするために、財政・軍事・政治・戦略で色分けしてみたい。
海洋国家の揺籃期
(順番は狂うが)
世界戦略とは、人員・艦船・財源をハイペースで費消するもの
世界戦略の必要条件=損害に耐え、それを補充しうるだけの財政・行政制度…(d)
(イギリスの状況)
財政収入の少なさ→財政難
→適正な規模の海軍を維持するのが困難
→長期ともなれば更に不可能に近い
→短期間で成果を上げる必要性が生じる=短期間・ハイリスク・ハイリターン(と思われる)戦略の追究
しかし、しばしば、この戦略は目標と合致しない軍事的手段を取らせることになる
議会と国王の対立→艦隊建設への投資の阻害(議会の、対スペイン同盟に資金が流れることへの恐怖)
クロムウェルの登場
→議会が歳入と歳出を一手に握る
時代背景(大陸の覇権国家の出現可能性の低下)
- スペインの弱体化
- フランスの内憂による弱体化
- オランダとの競争
- 商業界からの地中海海域にコミットせよとの圧力
- スペインの交易妨害の一部達成
- 大陸への陸上兵力によるコミットの橋頭堡確保
- アメリカ大陸・カリブ海・自国海域でのプレゼンス維持
オランダとの戦争に[全力を投入する]
国王との対立→財政収入の問題の再浮上
名誉革命→収入と支出の主体者の立場の一致→議会が課税に賛成
債券市場の大規模化
中央銀行による政府の信用の維持
→1700年までにイギリスの財政制度はヨーロッパ随一のものに…(d)の達成
ただし、世界戦略への達成はまだ←イギリスの戦略的地位
- フランス海軍の絶頂期→英仏海峡の防衛に英蘭共同で全力を注ぐ必要性
- フランス陸軍への対応→陸上部隊を大規模にコミットさせる必要性
「牽制艦隊(fleet in being)」によりイギリス本土の防衛は可能=国土防衛に海軍力すべてを費やす必要はない
→この2つの海戦はすぐさまには顧みられず
フランス海軍の弱体化
イギリス側はフランス海軍の削減をすぐに察知することはなく、対フランス海軍の大規模戦力を残す(→世界戦略形成に遅れを生じさせる)
一方で、フランス海軍は私掠船による通商破壊へ→イギリスの交易を世界規模で脅かす
イギリス政府内での戦略形成の困難(戦略とは好機につなぐ選択肢を提示するもの)
→徐々に海上戦略と大陸戦略とが必ずしも二項対立的なものではなく、相互に融和的であることが認知される
陸上戦略(この部分の意義付けはよく分からない)
同盟国とイギリスとの目標のずれ→マールバラの活躍でイギリスは同盟国にその戦略を押し付けることが可能に
海上戦略
(フランスの脅威が不明な中で)艦隊分割に反対する声はあったが、徐々にフランス海軍が脅威にならないことが分かり、艦隊分割の方向へ→大西洋から地中海へ主軸の移動
ミノルカの重要性の発見→ミノルカ-ジブラルタル-大西洋のラインの確保→イギリスの地中海覇権確立
地中海大国としてのイギリスの出現の重要性
- イギリスの立場を永久に変容させる
- 政策が一定化し、地中海でのプレゼンス維持が国家としての優先課題に
アメリカ大陸への進出→世界戦略の確立
[絶対的な海上優勢から相対的な海上優勢へ(?)]
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